2018年9月8日 7:48

北海道地震で傾いた家を直すための参考意見です

北海道地震で被災に逢われた皆様と救助活動されている方にお見舞い申し上げます。

自分は自分なりに出来ることをと考えて、このブログを取り急ぎ書いています。

 

7年半前の3月29日に浦安市災害対策本部にご招聘いただいた自分は、当時の浦安市松崎市長にこう言われました。

「岡本さん。浦安のライフラインは4月15日には全て仮復旧します。そうすると次は市民から「傾いた家をどうすれば直せますか?」と質問が来ます。その時に、判らないです。と云えません。そのため家の傾きを直す専門業者に連絡を採ってます」

自分は今、振り返るとその時に充分な役割りを果たせませんでした。もちろん多くの(専門家)も同様だったと思います。

その時の反省や、にわか業者による施工の酷さによる2次被害を見てきた者として、今年4月に「曳家が語る 傾いた家を直す 沈下修正 ホントの話」(主婦と生活社)という本を出版させていただきました。

曳家が語る 家の傾きを直す「沈下修正」ホントの話

これは今現在、液状化で傾いた家を修復するための唯一のハウツー本です。

代表的な6つの工法に関する技術的な解説もまずまず建築関係者以外にも判るように書きました。

※実際には建築士さんの購入が多かったです。恐縮です。

 

ここからが本題です。

今回の北海道地震での液状化による家の傾きについて書きます。

北海道の拡い範囲は「ピート層」と呼ばれる含水率の高い土質になります。

すると・・

高額ではあるものの、もっとも修復後の安定性が高いと言われているアンダーピニング工法を選択する場合の注意を書きます。

※ご指摘をいただきまして、下記の部分を修正いたしました。

ピート層内の鋼管は腐食しやすい傾向が考えられるので「防錆処理」や「腐食しろ」分を考慮した肉厚にするなどの対策をしなくてはなりません。しかし、底板下での圧入作業をする側としては抵抗を少なくして作業効率だけを考えるとなるだけ薄いものを入れたいと考えるので耐久性に問題が生じる場合があります。またピート層は圧縮性が高く杭頭付近の腐食が生じやすいので、特に十分な対策を講ずる必要性があります。

 

こうした腐食の問題を解決するために鋼管杭ではなく、コンクリート杭を使用する場合もあります。但し、これは駐車場に置いてある輪止めのようなコンクリートを「積み重ねてゆく」工法ですので「挫屈」(折れ曲がる)可能性が高い難点があります。コンクリート杭によるアンダーピニングの場合は挫屈しないようにサイコロ状のコンクリートの真ん中に穴を開けてそこに鉄筋を通す工法もあるようです。

アンダーピニング工法は沈下修正工事の中で唯一、岩盤層もしくは中間支持層と呼ばれるN値(地盤の固さを示す数字)が充分だと考えられる位置から「反力」を採ることで家を持ち揚げます。手間もかかりますので、浦安市で行われていた工事でも1200万円前後の工事費が多かったです。

 

耐圧板工法は一般の方からすると「基礎ごと」持ち揚げるわけですから、外から見た目には、ほとんどアンダーピニング工法と同じように見えます。しかしこちらは、深く杭を打つことを諦めて、底板から1m程度の深さのところに厚さ16mm 60cm×60cm程度の鉄板を敷いて、地盤との設置面を増やして反力を獲って、その上にジャッキを掛けて持ち揚げるものです。

ほとんどの木造2階建ての重量であれば、地表から2m以内で反力は獲れますので、木造住宅であれば「耐圧板工法」を選択することはありだと思います。

 

ついで上記2つの工法に関して、北海道の事情に照らして、もう一つ、懸念されることがあります。

「地下水位が高い」ことです。地下水位が高いとトンネルを掘る作業する際に、排水工事費用が大きくなります。茨城県神栖地区では排水手間だけで150万円ほどかかっていたお家も見ました。また排水は地下水位を下げてしまいますので近隣の住宅に影響を及ぼすリスクもあります。

土台揚げ工法であれば、地下水位の問題もありません。浦安市入船地区では「布基礎」のお家が多かったことと、この水位の問題から「土台揚げ」工法が多く選ばれました。しかし土台揚げは地盤改良を伴う工事ではありませんので地盤が安定していること。再沈下が起こる可能性があることを認識しておいていただなくてはなりません。それでも1棟あたり300万円前後で沈下修正工事が出来ることから、選ばれていました。

 

はっきり言って、再沈下の起きない沈下修正工法なんてものは存在しません。

 

再沈下の起きる可能性を減らす工法はある。と考えてください。「土台揚げ」は、将来、再沈下が起きた時に「もう1度」依頼できる金額であるところが魅力だと思います。

またこれは熊本地震の画像ですが、曳家による土台揚げであれば上部構造の損傷を直すことも出来ます。液状化以外の被災住宅では有効だと言えます。

 

千葉県松戸市で「沈下修正工法」セミナー

薬液注入工法は、地盤改良と同時に沈下修正を行える優れた工法です。但し、薬液が地中で近隣のお家に流れてしまって関係ないお家を傾かせてしまう。裏のお家の井戸水が枯れてしまった。などの事故もありますので近接した住宅が無いことを前提に考える必要があります。

また北海道の場合、厳冬期はコンクリートや硬化剤が固化できないでしょうから、工事は暖かな時期のみとなると思います。

 

発泡ウレタン工法の場合はあまり土質等に関係ありませんので、工場やホームセンターなどの、沈下修正工事には適していると思います。

 

最期に当り前ですが。どの工法もきちんと技術力のある職人が誠実に施工しなくては良い工事になりません。浦安の時は工法名と金額だけで選択されていたように感じます。このブログが少しだけでも誰かの役に立ちますことを願います。

 

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能登半島地震で住宅被害に遭われた方へ

以下、実務者の立場から書かせていただきます。

  1. 液状化による地盤沈下を直す「沈下修正工事」と地震の横揺れで歪んだ建物を直す「家起こし(軸組補正工事)」は別ものです。

    水平を直すのみの工事と、垂直を直す、もしくは水平を直しながら併せ技で垂直も直してゆく工事です。

    おそらくは新潟県は沈下修正工事のみで可能です。石川県では家起こし、および座屈した柱の取り換えなども必要になると思います。

  2. 工事の着工時期についてですが。皆さま1日も早い修復を望まれていらっしゃいると存じます。しかし、地盤が充分な固さに戻るまでは施工出来ません。

    余震がこのまま収まったとして、おそらくは最低3月頭くらいまでは着工するべきではありません。

  3. にわか業者、悪質ブローカーにご注意ください。

    普段、ご縁が無い業種ですから唯一、判断できる金額のみで選ばれることもあるかとあります。

    家は安心して眠れる場所でなくてはなりません。

    歴史を背負っていない利益だけを考えている方と誠実な工事をされている業者を一緒にしないようしてください。