2021年4月11日 11:01

社寺・古民家修復における根継ぎ

私たち曳家は、建築士さんや、大工さんの要望に沿って柱や横架材の抜き換え等が円滑に行えるような施工をさせて頂かなくてはなりません。
それが出来る程度には「構造」についての知識を持っていなくてはなりません。

上の画像は、柱の根継ぎをしているところです。
腐ったり、白蟻被害にあった柱を根継ぎする「金輪継ぎ」や「四方鎌蟻継ぎ」など手刻みの大工技術は社寺や古民家の再生には無くてはならない技術です。
一般の方はこれを見て、単純に「素晴らしい技術ですね。これでもう安心です」と言ってしまいがちですが。
実際には、普通に考えれば判ることですが、「継いだ柱は弱くなります」これは実験では本来の強度よりも35%程度しか無いということが数値化されています。


画像左手にある床柱が白蟻被害が酷かったために、これを抜き換えるために両側に枕木タワーを組みました。

これは上部の梁が幾重にも重ねられたものでそれらの荷重を確実に受けるために、こうした手間をかけました。

根継ぎは、こうした抜き換えが出来ない場合、主に予算的な問題ですが、四方差しなどで施工が困難で、「やむを得ず行うもの」であって決して「万全なもの」では無いことを建築士さんはお施主さんに説明していただければと願います。

ちなみに新潟の行列が出来る工務店として有名なオーガニックスタジオの相模社長は、昨年facebook上で、当職がツッコミを入れることを想定しつつ、10本以上の柱が金輪継ぎで修復された文化財の画像をアップされてました。
その金輪継ぎは、全て同じ高さで揃えられていました。
おそらくは作業を簡易に行うためだと思うのですが、悪意を持って見れば構造の知識が足りない意匠系建築士もしくは現場監督の指示なのかも知れません。

当職からの相模社長の投稿へのコメントとしては
「同じ高さでの根継ぎは地震時に於いて揺れにより弱くなるので出来る限りするべきでは無いのに、なぜ?こういう細工をしたのでしょう?」と書きました。
すると相模社長からは、
「岡本さん。これは見えつらいところを全て黒く塗った鋼材で補強しているんですよ」でした。


う-ん。誰もが見るであろう、本来は手本となるべき文化財修復でこんな施工で赦されるのか?
もしかして若く未熟な大工が、これを手本として誤った参考例にしてしまわないのか?を心配してしまいました。


上の画像は別の現場ですが、2階部分の床を剥がしてもらって柱をかなり高い位置で根継ぎするために掴んでいる様子です。
画面の中央に見える以前の粗雑な根継ぎの細工部分を切り落として取り換えるためです。

曳家が相判で参加させていただくからこそ出来る安全に、きちんと接合も含めての修復が可能です。
どうぞ曳家の技術を思い出してください。

ps
社寺、古民家修復に於ける鋼材での補強は近年では結露の発生ゆえ問題視されています。

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能登半島地震で住宅被害に遭われた方へ

以下、実務者の立場から書かせていただきます。

  1. 液状化による地盤沈下を直す「沈下修正工事」と地震の横揺れで歪んだ建物を直す「家起こし(軸組補正工事)」は別ものです。

    水平を直すのみの工事と、垂直を直す、もしくは水平を直しながら併せ技で垂直も直してゆく工事です。

    おそらくは新潟県は沈下修正工事のみで可能です。石川県では家起こし、および座屈した柱の取り換えなども必要になると思います。

  2. 工事の着工時期についてですが。皆さま1日も早い修復を望まれていらっしゃいると存じます。しかし、地盤が充分な固さに戻るまでは施工出来ません。

    余震がこのまま収まったとして、おそらくは最低3月頭くらいまでは着工するべきではありません。

  3. にわか業者、悪質ブローカーにご注意ください。

    普段、ご縁が無い業種ですから唯一、判断できる金額のみで選ばれることもあるかとあります。

    家は安心して眠れる場所でなくてはなりません。

    歴史を背負っていない利益だけを考えている方と誠実な工事をされている業者を一緒にしないようしてください。